院長の太郎です。
男性を元気にするクリニックではありますが、もともと癌も扱う泌尿器科医。
現在も外来を持っていますので癌のニュースには敏感です。
今回取り上げるのは東芝が開発を進めているマイクロRNAを使ったがん検診についてです。
概要は
たった一滴の血液から2時間以内に99%の精度で13種類の癌の有無がわかる
すごいことです。
13種類とは
乳がん、膵臓がん、卵巣がん、前立腺癌、食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆道がん、膀胱がん、肺がん、脳腫瘍、肉腫
どれも生命に関わる重要な悪性腫瘍です。これらが99%でわかる!
そして、、、
見つかった癌の中にはstage0のものも含まれていたとのこと
stage0
ってことは、画像やこれまでの腫瘍マーカーでは引っ掛けられなかったものですね。
これまでマイクロRNAって血液内にあっても全く注目されないものだったのですが、こんなお宝のようなものだったとは、最初に気づいた研究者の方は素晴らしいと思います。
それではどれだけこの検査がすごいことか、具体的に見ていきましょう。
今回の13種類の中で、泌尿器科医が取り扱う腫瘍は
前立腺がん・膀胱がん
まずは前立腺がん
男性にしかない前立腺という組織にできる癌で、男性にしかない疾患です。
近年増加しているのですが、PSAという腫瘍マーカーが普及したことも影響していると思います。
PSAが普及する前、前立腺癌は自覚症状が出にくいために症状にきづいて受診したときには完治不可能なくらい進行していることが多かったのです。そのようなときの症状とは骨に転移したことによる腰痛など。。かなり進んでいることがわかります。
PSAが普及すると、症状がなくても腫瘍マーカーが高い方を精密に検査することで、完治可能なうちに癌を見つけることができるようになったためにかなり予後の良いがんになります。
ただしPSAが高い=前立腺癌、というわけではないのが弱点なのです。中高年になると前立腺は程度の差はあれ、肥大してきます。大きくなった前立腺のためにPSAが高くなっている方もいます。前立腺に炎症を生じてもかんたんにPSAは高くなるため、PSAが高いからといって癌とは限りません。注意深い追加検査が必要ですし、確定するためには前立腺に何箇所か針を刺して、組織をとってくる生検検査が必要です。
生検はとても大きな侵襲をともなうのでやらずにすめばいいのですが、前立腺癌は早期に見つけると様々な治療法が選べて、生命予後もとてもいいので疑わしいと判断したら行わなければいけません。
これが今度どうなるか。
マイクロRNAで前立腺がんの可能性が指摘された場合、これが99%の正診率であるならば、PSAの大小に左右されなくなります。
PSAが高く、MRIでも癌をうたがう所見があればこれまで生検を考慮することがありましたが、PSAが高くてもマイクロRNAが陰性の場合は経過観察、という選択肢が出てくるようになるかも?
針生検という大きな負担を、より疑わしい方に限定して行うことができるようになります。
次に膀胱がん
膀胱とは腎臓で作られた尿が身体の外に出る前に、出口の手前で一時的に貯蔵されているところです。膀胱のおかげで人は尿を我慢でき、2時間以上もトイレの間隔をあけられるのです。
膀胱がんはこの袋のなかにできる腫瘍です。イソギンチャクのように多数の枝を出しながら尿の溜まった膀胱内に飛び出しながらフワフラ揺れている様子はかなり特徴的で、そのような見た目の腫瘤は悪性のことが多いです。
膀胱腫瘍もある程度大きくなるまでは症状に乏しいことが多いです。目に見える血尿で受診された方で見つかるときにはかなり大きなものになっていることが多く、検診で目で見えないくらい少量の血液が尿に混じっていることで精密検査をして見つかったときなどはまだ小さいことがあります。
膀胱がんの治療の第一はその腫瘤を内視鏡を使ってすべて削り取るのですが、大きい、またが数が多ければ多いほど出血や削る事による膀胱への負担も大きくなるので、早く小さいうちに見つけるメリットはとてもあります。
そしてもう一つ、これは上記の食道がんや胃がんなど、消化器の癌とも似ているのですが、膀胱がんは見た目の大きさよりも、生えている膀胱への根っこの深さのほうがとても重要です。根っこが浅ければ先程の内視鏡の手術で完全に取り切れるのですが、根っこがある深さ以上になると削っても残ってしまいますので、膀胱をすべて取り出す開腹手術が必要になるのです。削るだけとは大きな違いです!!
転移の可能性も大きく増加し、まるで別の癌ではないかというくらい生命予後は大きく変わります。
これが今後どうなるか。
マイクロRNAで早期に膀胱がんの可能性を指摘された場合、小さなうちに見つけ出すことで数やサイズが小さいうちに、根っこが浅いうちに削り取り完治!膀胱の負担もかなり小さいです。また、膀胱がんは高頻度で再発します。そのため小さいうちに削った癌でも、その後の再発を注意して定期的に膀胱の内視鏡検査などの負担がかかる検査が必要になるのですが、マイクロRNAが術後のフォローにも使えるのであればその負担も減らせるかもしれません?
以上のことはまだ自分が考えた仮説ですが、実際そのくらい13種類とも検査・治療戦略が変わってくる可能性はあります。
今年2020年から実証試験が行われていくそうですので、実用化が楽しみです!