院長の太郎です。
2019年12月1日の日本性感染症学会2日目に聞いた講義のなかで、性器ヘルペス治療についてまとめます。
1日目にも総論として聞いていましたが、予防治療などについてもよりしっかり確認できました。
以下はまとめです。
単純ヘルペスウイルスは100種類以上存在しますが、人を宿主にするのは8−9種類です。
口唇ヘルペス、性器ヘルペスが有名ですが、この間紹介したように尿道炎の原因にもなるのでしたね。
足底や臀部にできることもあります。
日本では1年間に7万4千人罹患します。アメリカでは6千万人だそうです。
セックスパートナーの数とウイルス抗体価の上昇は相関します。多くの方とセックスすると感染する可能性が高まるのは理解しやすいですね。
HSV抗体の陽性率は低下してきています。
感染にはウイルスの細胞膜への吸着が必要です。粘膜は皮膚の上皮とくらべてバリアー機能が弱いのでウイルスが入り込みやすく、口唇や性器に症状がでやすいです。
傷があると上皮でも入り込みやすいです。
エステでケミカルピーリング後に顔に発生した例や、ひげそり後に皮下に播種した例が報告されています。
大腸癌治療のためにセツキシマブという分子標的薬を使用したときに臀部ヘルペスを生じた例もあります。
HSVは温泉水では即時に死にますが、水道水では4時間、蒸留水では24時間、物質についたときには4.5時間生きているそうです。
口唇ヘルペスの症状があるときの感染リスク
格闘技を行うと感染リスクは中〜高(組技系でしょうか?)
コップや食器の共有では低
マッサージでは低
石鹸やタオルの共有では極めて低
トイレ・握手・下着の共有ではほぼない
とのことでした。
再発したときには外陰部だけでなく膣部や子宮頸部にもウイルスはいるので塗り薬はだめです。内服薬が必要です。
妊娠中の場合、初期にはアシクロビル軟膏を使用します。
新生児ヘルペスでは経産道感染が85%とのことで、ウイルスの無症候性排泄によるものの場合もあるため帝王切開が勧められます。
新生児ヘルペスの症状は顔や身体に水疱ができます。治療はアシクロビル30mg/kg/dayを12日間
再発抑制療法がありますが、母体がこの療法を行うことで新生児ヘルペスの発症を防げるというエビデンスはまだないとのことです。
妊娠1期、授乳期の抗ヘルペス薬は胎児に影響しません。
患者さんの意識として性器ヘルペスにかかったことがわかったとき
・ショック
・普通の性生活ができなくなる
・性感染症になってしまった
・婚活できない
etc
と悩みが大きいことが調査でわかっています。
急性性器ヘルペスは1型が多く、再発は2型が多いです。
最初の症状は1型が強いけど、その後再発が多くて困るのは2型ということですね。
以前は口唇ヘルペスは1型、性器ヘルペスは2型と言われていましたが、オーラルセックスの普及であまり関係なくなってきています。
2型が手指にできることもあります。しかしそれは医療従事者や介護のお仕事をされている方です。
HSV1型は主に三叉神経節、2型は主に仙髄神経節に潜伏します。臀部ヘルペスは神経の支配領域にそって、帯状疱疹のように帯状に出てくることもあります。
年平均の再発頻度は
HSV2型は9.7回、1型では1.0回です。
再発時に増殖したウイルスはその後神経節に潜伏します。つまり再発すればするほど潜伏するウイルス量が増えて、再発頻度も増えていきます。
初回感染のときにしっかり投薬でウイルス増殖量を抑えること、再発頻度を減らすことが重要であることがわかります。
治療方針は3本立てです。
初発のときの治療
再発に対する治療
再発単純ヘルペスに対する抑制療法
です。
ヘルペスウイルスを殺す薬はありません。増殖を抑えるのです。
ヘルペス再発のとき、前兆でムズムズ感などを感じることがありますが、このときすでにウイルスのDNAは増殖しています。水疱などの症状が現れ始めたときには実はウイルスは減ってきているのです。
つまり、水疱などの症状が出現してから病院を受診して増殖を抑える薬を飲み始めたのでは遅いということです。
ベストなのは前駆症状が現れたときには内服を開始することですが、突然再発するヘルペスの兆候ですのですぐに病院を受診できないことも多いです。
そこで今注目されているのがPIT(Patient Initiated Therapy)です。患者主導型の治療です。
事前にヘルペス治療薬のファムシクロビルの処方を受けておいて常に持っておき、前駆症状が現れたときに患者自身の判断で服用開始する方法です。
ファムシクロビル(ファムビル®)は1錠あたり250mgの内容ですが、以前は朝昼晩1日3回1錠ずつ(1日750mg)内服する方法が取られていました。今は再発ヘルペスに対して1000mgを1度に内服、その12時間後にもう一回1000mgを内服することで治療が終了する短期内服療法が行えるようになりましたので、治療自体もシンプルでやりやすいですね。
このように大きな容量を一度に内服することでウイルスに対して有効な濃度がより長く保たれるためこの内服で効果が出ます。
性器ヘルペスに使用される薬の半減期(体内に入った薬の濃度が最初の半分まで分解される時間、これが長いほど飲んだ薬が長く体内で効いているってこと)は
ファムシクロビル25mg 1.84時間
バラシクロビル500mg 3.27時間
アメナノビル300mg 6.88時間
ファムシクロビルはあまり長くないですね。アメナノビルは新しいウイルス薬ですが、こちらは半減期も長く、今後主流で使われるようになるかもしれないそうです。
再発時の前駆症状としてピリピリした感覚などがありますが、82%の人が感じます。
国内で再発ヘルペスの治療としてファムシクロビルの試験を行ったとき、性器ヘルペスの方はプラセボと比較して2日も早く治りました。
副作用としては
眠気 1.1%
頭痛 0.8%
がありました。
投与中止になった方は動悸で1例だけでした(全体何例の部分を聞きそびれていて%がわかりません。すみません)。
副作用も少ないですね。
初感染後の無症候性排泄は女性で
0-12ヶ月 4.3%
13−24ヶ月 2.3%
25−36ヶ月 2.1%
です。
再発は初感染後3ヶ月以内が多いです。男性は肛門と陰茎に、女性は子宮頸部が部位としては多いです。
パートナーに伝染る可能性ですが、固定カップルの間で年間10%。男性がHSV2型感染していて、パートナーが妊婦だと33%/年にもなるそうです。
性器ヘルペスにはPITのほか長期抑制療法がありますが、これをやっている方が感染させる可能性は減ります。
PITでもパートナーにはうつしにくくなります。
まとめは以上です。
PITはとてもいい方法です。なんとなく、日本はこういう治療法が許可されにくい印象でしたが、いまの厚労省はさすがですね!
もちろんまずは予防です。安全なセックスライフを楽しんでくださいね!